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小説版「百年後の博物館」ロゴ


地層から発見されたバンは、それでも順調に発進した。ギアを入れ替える時だけ、首の骨が折れるような音がして車体が激しく揺れたが、そもそも道はまっすぐで信号なんかもない、ギアを入れ替えることも滅多になかったので心配はなかった。
カーステレオからは、リズム&ブルースが延々流れていた。しゃがれ声の歌手がバンジョーを相手に切々と唄っている。それは延々と続く荒野の風景と絶妙に重ねあわされ、この風景のために作られた音楽のようだった。
テンガロンハットは運転しながら、ひっきりなしに後部座席の金髪グループに話しかけていた。何度も甲高い笑い声が起こり、車内は今までのバスとは大違いの盛り上がり方をしていた。少年はひとりで窓の外を眺めている。サイドミラーを見ると、確かに屋根の上にサビ男がいるのが映っていた。サビ男は、立ち上がって全身で風を浴びていた。落ちてしまわないかとヒヤヒヤしたが、それを知ってかサビ男はふざけて逆立ちなんかをしてみせた。サビ男の昔の職業は、曲芸師なのかもしれない。

トリのことを思い出す。あのインディアンは、うまく天国に行けたのだろうか。そういえばグランドキャニオンのあたりが彼の出身地だと言っていた。少年はあれ以来、未来のことを考えるのを止めている。

グランドキャニオンに近づくと、テンガロンハットが、20ドル追加で払ってくれるなら半日ツアーをしてやろう、と提案してきた。乗客は全員それに賛同し、そして一行は今少年が立っている絶景に到着した。
ここは地元の人間しか知らない場所さとテンガロンは言った。さっきまでキャーキャー騒いでいた金髪のグループも、みな押し黙って風を浴びている。少年だけではなく、誰もが言葉を失っていた。もしくは、こういうときに使う適切な言葉を誰も知らなかった。そのくらいこの巨大な峡谷は訪れる者を圧倒し、地面にひれ伏せさせた。巨大な黒い鳥が数羽上空を旋回している。風はいつまでも吹き続ける。長髪の青年は「すごいね」と言ったあとは、再び押し黙ったままだ。少年は言葉を探すが、やはりいつまでたっても見つからない。

それからいくつかのポイントを回って、サウスリムと呼ばれるホテルが密集している地域にバンは到着した。乗客たちはテンガロンハットと順番に握手をして、それから別々の方向に去っていった。
「安いホテルを探してくる」と長髪の青年は告げてその場を離れた。
サビ男がどこからともなく現れて、少年の肩に手を置く。「さあ、どうする。本物の父さんに会いに行くか。それとももう家に戻るか」
「連れてって」と、少年は言った。


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